寄書き <小野きみ子 前新宿区議会議員>

2014年06月18日

伯母にあたります「小野きみ子」(前新宿区議会議員)からのレポートを掲載します。  

「九死に一生」

きみ子SOS

ツルツルでピカピカのバスタブは、独り暮らしの高齢者にとって凶器です。いや、極端に言えば棺桶になります。   五月の末、私が遭遇したとても怖い体験を報告します。   私は20年程前、大阪のビジネスホテルのユニットバスで、バスタブの中から立ち上がれなくなって、困ったことがありました。それでも壁に手すりが付いていたので、何とか立ち上がれたのですが、以後、ツルツルのバスタブを使うときは、決して座らず、立ってシャワーを浴びるだけですませておりました。   今住んでいるマンションは入居3年以上になりますが、シャワーを浴びた後、タオルでバスタブの中の水滴を全部拭き取ってから出ていました。 ところが5月28日は、病院に行く日でしたから、いつもより30分早い、朝6時にシャワーを浴び終えて出ようとした時に、ツルリと足を滑らせて、バスタブの中に落ち込んでしまったのです。 腰と膝の右側を強打して、身動きするだけで苦痛でしたが、それでも滑り台から滑り降りたような姿勢のままでいるのは尚辛いと思い、もがいていましたが、手すりがない悲しさ、どうすることもできません。 そのうち、たまらなく寒くなり、ためしに頭の後方に手を伸ばしてみると、シャワーの蛇口にギリギリで手が届いたので、お湯を入れて寒さをしのぎました。 また、水の浮力で、少しだけ腰を浮かすことができたので、タオルをお尻の下に敷いて、とにかく落ち着きました。   その次にしたのは、ユニットバスの扉を開くことで、手が届く範囲にあったトイレブラシで観音開きの扉を突き続けていたら、20センチ巾ぐらい開きました。 そこで「助けて下さ~い。バスタブから出して下さ~い。」と叫びました。 運よく部屋の窓が開いていて、網戸だけでしたから、もしかしたら誰かが聞いてくれるかも知れないと思ったのです。   私には何かといえば助けてくれる妹が近所にいますが「28日は朝から病院に行く。帰りに久しぶりに本屋さんに寄ってくる。」と伝えていたので、この日に来るはずはないと諦めていました。それでも「SOS」を聞いたら、どなたかが119番に連絡して下さるかも知れない。そんな百分の一の可能性に賭けて、叫び続けました。   18時間程経った時、玄関をドンドン叩く音がしたので、更に大声で「助けて、助けて」と叫んだら、間もなく妹と救急隊員が入って来て、救け出してくれました。 聞けば、路地を隔てた向かい側の家の方が聞きつけて、管理会社に通報して下さり、そこから妹に連絡が行き、同時に救急車も呼んで下さったのでした。   私は、18時間ぐらい入っていたのかと思っていましたが、実際は56時間、約3日間バスタブに沈んでいたのでした。 途中、度々気絶して、時間の流れがつかめなくなっていたようです。 幸い心臓も血圧も異常なし、なので、体を拭いてベッドに寝かせてもらっただけで、病院搬送は謝絶しました。   以後、病院に行く時は、妹に付き添って貰っていますが、ベッドから立ち上がる時、ベッドから椅子に移る時、たったこれだけの動きが腰に響いて、ウンウン唸っています。   土牢から出たときの黒田官兵衛の痛みが良く判りました。   今、私が自治体に提案したいのは、独居高齢者の住居の浴槽には手すりを付けるよう指導して欲しい。既製の建物の場合でも、手すり取り付け費用を補助して欲しい。   尚、私はお風呂用の椅子をバスタブの中に置きました。滑り止めのマットも売られているようですから、これらの道具の存在を、積極的にPRして欲しいものです。  

アーカイブ

ページトップへ